缶がふたつと猫二匹




流川はいつもと同じように、残って練習をしていた。
ただし今日は、他にも一人まだ残っている。
『あと100本入ったら帰っから。』
少し前に帰った桜木に言っていた言葉を思い出し、流川は足を止めた。

休憩しようと、さっき買ったポカリの缶の所まで行って腰を下ろす。
ぜーぜー言いながら二口ほど飲んだ。
「流川ァ。」
ノルマを終えたらしい三井が流川と同じく息を弾ませて向かってくる。
「俺もう上がるわ。」
上がると言った三井が流川の横にあるもう一本の缶と並んで座った。
勝手にその缶を手に取り、プルタブを開ける。
また買いに行かねばならなくなり、流川は眉をひそめた。
「…。」
半分ほど一気に飲み干して長い息を吐いてから、三井は流川を横目で見た。
「お前ほんと喋んねーよな。」
「…そうすか。」
どうでもいいという顔で相槌を打つ。
流川はポカリをもう一口飲んで、缶を床に置いた。
「そーだよ。何で喋んねぇんだ。」
缶に落としていた視線を三井に戻し、呟く。
「…小学生の時。」
「あ?」

あの頃から流川は、女にモテていた。
自分の何がいいのかは知らない。
既にバスケに夢中だった流川は彼女たちの気持ちを全て無視していた。
女子たちにはそういうクールな所がいいとか何とか意味不明なことを言われていたが、
男共は何故かそれが気に入らないらしかった。
他人のことなど放っておけばいいのに、と、あの時の流川には不思議で仕方なかった。
話さなくても特に害があったわけではないから、クラスの3分の2の男に無視されても、
そのことは流川は何とも思っていなかったのだが。

「声が気持ち悪いって言われたんす。」
三井が絶句した。
気に止めず流川は話を続ける。
「前からあんまり喋んなかったんすけど、それ以来もっと喋んなくなったんす。」
「…そりゃ…、イジメ、とか?」
三井にしては控え目なトーンで、言いながら缶を置いた。
「わかんねーけど、多分。」
「…。」

三井に何故この話をしようと思ったのか、流川にはよくわからなかった。
こんな話誰にもしたことはなかった。
そもそも流川は全く気にしていなかったのだから。
ただあの時気持ち悪いと言われたのが引っ掛かってしまっただけで。
もしかしていじめられていたのか?と気付いたのは中学に入ってからだったし、
その頃にはいじめようという奴なんていなくなっていた。

「…お前も結構苦労してんだな。」
目を伏せて言う三井を見て、流川の鋼の心臓がどくりと脈打った。
どうにかして慰めたい気分になる。
苦労なんかしてないと否定しようとすると、三井が顔を上げ、悪戯っぽく笑った。
「ま、これからはセンパイに何でも相談しなさい。」
三井にさっきまでの影は落ちていない。
流川はほっとしたが、顔には出なかった。
「アンタに相談しても解決しねー。」
「あぁ?てめぇケンカ売ってんのか?」
自分の方が弱いくせに、三井はそう言って立ち上がった。
「せっかく慰めてやろうと思ったのによ。」
腕を組み顔を背けた三井の言葉を聞いて、流川は目を瞬かせた。
三井も流川と同じことを思っていたのか。
慰めよう、と。
「イイ方法がある。」
流川の口から思いが零れ出た。

流川は昔から思ったことをすぐ口にする子どもだった。
だから嫌がられていたのかもしれない。
中学に入って少し抑えることを覚えたが、この学校に来て、
多分バスケ部のせいで、また元に戻ってきていた。
バスケ部の奴らは、流川よりもずけずけとものを言う奴らばかりだからだ。

「何だよ?いい方法って?」
興味を引かれた様子の三井が流川を見下ろしている。
「俺と付き合えばイイ。」
流川は真顔でそう言った。
言ってから、三井のことが好きな自分に気が付いた。
信じたくなかったが、言ってしまったのだから、そうなのだろう。
「…。」
三井も真顔になって口を閉じていた。
「…お前を、」
十秒ほど待っていると三井は溜め息をついた。
「慰めようとした俺がバカだった…。」
額を押さえながら流川に背を向け、体育館を去っていく。

オカシイ。
本気で言ったのに、通じなかったのか?
残された流川は座ったまま首を捻った。
三井が口を付けた缶にはまだ中身が残っている。
飲むなら全部飲めと言いたかったが、相手はもういない。
仕方なく流川はそれを全部飲み、自分の分も胃に流し込んだ。
「…飲みすぎた。」
水分ばかりが入った胃をさすりつつ、ふらふらと缶を捨てに行く。
三井のせいで練習に身が入らなくなってしまった。
三井が全部飲まないのが悪い。
そういうわけで、流川は今日は帰ることにした。





流川ファンの方すみません。ごめんなさい。石投げないでください。
流川が嫌いなわけじゃないんです。流川に対する私の愛情表現がねじまがってるだけなんです…。
えーと、流川はちゃんと掃除してから帰ってます。ミッチーは普通に帰ってます。

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