初体験 朝から三井が浮かれていた。 練習中も授業中も昼休みも、お構いなしににやけっぱなし。 いい加減苛ついてきた俺は帰り道、スキップでもし出しそうな三井の頭をはたいた。 「いってぇ。」 立ち止まった三井が不満そうな顔で俺を見た。 俺もそれに負けないぐらいの不機嫌さを表す。 「今日一日何浮かれてたんだ?」 「えっ、俺浮かれてた?」 指摘され、三井は驚いて焦っている。 自覚ないのかこいつは。 救いようがないな。 俺がげっそりして溜め息をつくと、やっぱりへらへらしながら三井は続けた。 「わりーな。ちょっといいことがあってよ。」 詳しいことは語らない。 明らかにあやしい。 歩みを進めつつ、俺は訊ねた。 「彼女でもできたのか?」 訊ねたけどそれはないな、と思った。 もしそうなら三井は夜まで待たず喜々として朝から俺に話すだろう。 こいつはそういう話を誰かに話さずにはいられない性質だ。 「そうじゃねーけど。」 やっぱり。 「けどそんなもんかな。」 やっぱり。 …って、どっちだそりゃ。 「何だよそれは。はっきりしねーな。」 俺がつっこむと照れているのか三井は顔を背けて言った。 「好きなヤツと久々に会えんの。」 思った通り言わずにはいられなかったようだ。 俺は妙にショックを受けてしまい、返事が出来なかった。 全然気付かなかった。 いたのか。 好きなヤツ、とか、そういうのが。 誰だ? どんなヤツなんだ? 三井が好きになるヤツっていうのは。 訊きたいのは山々だが、隠したがっているらしい三井はこれ以上は言わなさそうだ。 やがて、三井と別れる場所に着いてしまった。 ここからは反対方向だ。 三井が自分の家に続く方の道に一歩進んで振り返った。 「じゃな。また明日。」 三井の顔には早く家に帰って好きなヤツに会いたい、と書いてある。 幻覚だと分かっていても、何故か胃が重くなっていく感覚を覚えた。 「…あぁ、明日な。」 ぎこちなく答える俺ににこやかに手を振って、軽やかな足取りで三井が去っていく。 背中を見送る俺の額から冷や汗が流れた。 俺は結構なバカだった。 今の今まで気付かなかったなんて大バカもいいとこだ。 大学に入ってから、ほとんどずっと一緒にいたのに。 いや、だからこそ気付かなかったのか? 近くにいすぎてそれが当たり前になってた? …ありえない。 ありえないけど、どうやら本気らしい。 元から記憶力のいい俺は、恐ろしいことに三井の言ったことをいちいち覚えていた。 カレー売り切れてて最悪、とか、あの教授絶対ヅラだ、とか、どうでもいいことまで。 どうでもいい奴が相手なら、この俺があんなテンションの高い五月蝿い奴の話を、 しかも機嫌の悪い時の話を、マトモに聞いてるわけがなかった。 俺は溜め息をついてがっくりと肩を落とした。 明日、また浮かれているであろう三井と、普通に話す事が出来るだろうか。 授業はないから、バスケのことだけ考えていれば何とかなるかな。 俺の様子が変でも、浮かれているあいつは気付かないだろうし。 弱気になっている自分に更に気分を重くしつつ、俺はふらふらと一人の家へ帰っていった。 こんな風に弱気になるのは、俺には初めての体験だった…。 藤真様。何故か様付け。藤真とミッチーのコンビがすごい好きです。 オレ様同士仲良くなれそうな気がします。※私の藤真観は激しく間違っています。 ちなみに私の中でミッチーと藤真と仙道は同じ大学へ行ってるのがデフォだったりします…。 あ、このミッチーの好きな相手は言わずもがな洋平です。遠恋中なんす。 →戻る |