上昇気流




机で寝るのが窮屈で、桜木は久しぶりに屋上へ上った。
今日もいい天気だから、屋上で寝たらきっと気持ちいい。
誰か先客がいたら追い出して一人で大の字になって寝転ぼう。
そんなことを考えて鼻唄を歌いながら扉を開けると、本当に先客がいた。
「ミッチー。」
柵にもたれちょうどこっちを向いて座っていた三井を呼ぶ。
三井は露骨に嫌そうな顔をした。
「桜木…。」
彼の人相が悪いのは元からなので、桜木にはちっとも気にならなかった。
追い出そうともせず、当たり前のように桜木は三井の隣に座った。
「ミッチーもサボりか。」
「…まぁな。」
一人で何をしていたのだろう。
寝ていたわけでもなさそうだった。
「サボって何してたんだ?」
訊ねると三井はちらりと桜木を見上げた。
「別にぼーっとしてただけだ。」
「ふーん。」
そのまま空を見上げた彼の視線を追って、桜木も目を上に向ける。
三井のいる方から入道雲が出ているのが見えた。
「でけー雲だな。」
桜木は至って普通の感想を呟いた。

俺は寝に来たんだ、と言うと、んじゃ寝ろよ、と返された。
何だか冷たい。
「ミッチーは寝ねーのか?」
何があったか知らないが、三井は今寝た方がいいような気がする。
イライラしているときは食べるか寝るかした方がいいと桜木は常々思っていた。
「ならお前のハラを枕にして寝っかな。」
三井が寝転ぼうとしている桜木を見下ろしながら笑って言った。
いくら三井の頭が小さいとはいえ、それはちょっと重そうだし、二人とも寝にくそうだ。
腹よりもっと枕に適した場所があるんじゃないかと、桜木は自分の身体を見回した。
…腕はどうだろう。
ちょうどいい具合ではないだろうか。
「ハラじゃなくて腕にしろよ、ミッチー。」
深く考えずに言うと三井のこげ茶色の目が丸くなる。
「ミッチー?」
そしてしばらく無言で桜木を見つめ、吹き出した。
「お前、マジバカじゃねー?そりゃ女にやるもんだろーが。」
三井は大爆笑している。
テレビで男が女の人に腕を枕がわりに貸しているのを、確かに桜木も見たことがあった。
その場面を思い出した瞬間、一気に恥ずかしくなってくる。
「うるせー!もうどこも貸さねーからな!」
笑いすぎて呼吸困難になっている三井に向かって叫び、背を向けて寝転んだ。


三井は笑いが治まってもやっぱり寝なかった。
気配が薄いが、横を向いたままの桜木の隣に座ったままだ。
考えないようにしていると、頬に冷たいものが当たるのを感じて目を開けた。
成長した入道雲が三井も桜木も通りこして街を覆っている。
頭の上で真っ黒な雲がごろごろと唸っていた。
「雨だ!」
声が重なり、慌てて二人で扉へ走り出したが、
校舎に入る前に激しい音と共に大量の水が降ってきてしまった。

中に入って扉の前でびしょ濡れになった頭を振る。
服も濡れてしまったので上は脱いで絞った。
床に小さな水たまりが出来てしまったが仕方がない。
「つめてぇ。」
三井がうんざりした様子で脱がずにシャツの裾を絞っている。
「すげー降ってんな。目が覚めちまったぞ。」
特に雨が嫌いだというわけではないが、寝る場所を奪われた桜木は少し扉を開けて、
恨めしく思いつつ滝のように降っている大粒の雨を見た。
「サボんなってお告げじゃねーの?」
濡れて束になった短い髪を触りながら、からかうように三井が笑う。
「そりゃミッチーだろ!」
そういえば自分はともかく、三井は授業をサボっている余裕などないはずだった。
サボってばかりいると卒業できなくなってしまう。
「何だよ。堅ぇこと言うなよな。」
自分で言い出した話なのに、不満そうに口を尖らせている。
そんなにサボりたいのなら止める気はなかった。
三井といるのは結構楽しいから。
もし留年したらその分一緒にいられるし。
三井は勝手な桜木の考えを知らずに壁に背中を預け、窓の外を眺めている。
「雨止まねぇかな。」
いつもより元気のない声だ。
「止んでも下濡れてるぞ。」
桜木は扉から離れ、三井の顔を覗き込むように彼の前に立った。
「元気出せよミッチー。」
何だかわからないけど、あんまりぼんやりしてると危ないし、元気がない三井がやたらと気になった。
三井は一瞬驚いた顔をしてから、すぐに表情を和らげた。
「元気だぞ?俺は。」
落ち込んでる原因を話す気はないらしい。
誰かに似ているな、と桜木は思った。
慰めたいけどどうすればいいのか思い付かない。
脱いだままのシャツを緩く振りながら険しい顔で悩んでいると、三井がくしゃみをした。
桜木は手を動かすのを止め、再び三井に意識を戻した。
「さみーのか。」
「ちょっと寒ぃ。」
三井の身体には濡れたシャツが張り付いている。
元々体温の高い桜木は寒くなかったが、触った感じ桜木よりも体温が低い三井は
シャツに熱を奪われてしまったらしい。
暖めないと風邪をひく。

「…お前やっぱバカだろ。」
左耳に呆れ果てた三井の声が入ってくる。
肩に顎を乗せたまま喋るのでちょっと痛かった。
「服ぐらい着ろっつーの。女にやったらセクハラだぞ。」
桜木が女の子をこんなふうに触れるわけがない。
指が触れただけで一杯一杯になるに決まっている。
男同士だからちょっと恥ずかしいかな、ぐらいで済むのだ。
「…ミッチーにしかやらん。」
三井だから、それで済むのだ。
…そもそも男同士で真面目に抱き合うのはおかしいような気もするが。
「バーカ。」
耳もとでくすくす笑われて、体温が急上昇したような気がした。
冷えた三井の身体を気持ちよく感じ、少しだけ腕に力を込める。
上がった体温は、三井にはちょうどいいかと前向きに考えることにした。
それから元気になった三井に殴られるまで、桜木は三井を抱きしめていた。





えらくラブラブになってしまいました。…この話の洋平と三井は出来てないと思われます。勿論花道とも出来てませんが。
席と被ってると思ってたけど(屋上で逢い引きだから(笑))やっぱり花道と洋平じゃ話が全く違うや…。
洋平版も書きたくなってきました。不眠症じゃない洋平とミッチーで。屋上萌えなんだろうか私。謎だ。
あ、ミッチーが落ち込んでたのは多分親と喧嘩したとかそういうのです(笑)

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