ときめきの楓号






流川は自転車を漕いでいたが、今日はいつものようなスピードを出すことは出来なかった。
そこの角から子供が飛び出してくるかもしれない。
さっき轢きそうになって恐い思いをしたところだった。
神社へ行くのであろう振り袖の女性や家族連れを横目で見ながら、いつものコートへ向かう。
初詣に行こうという母親の提案に乗らなかった流川は、普段通りバスケをするつもりだった。
流川にとって年が明けただのそんなことは、結構どうでもよかった。

背の高い男が駅前に立っているのが見えた。
近くに神社があるため、駅はいつもよりも込み合っている。
その中でも特に目を引くその男は、イライラした様子で腕時計を見ていた。
誰か待っているのだろうかと思いながら、
上着のポケットに手をつっこんで柱に凭れた男の側で自転車を止め、声を掛けた。
「先輩」
「る、流川……! 何でここに!」
流川に気付いた三井が後ずさりしようとして柱に背中を押し付ける。
ここは流川の家の最寄り駅、つまり湘北の最寄り駅でもある駅、ではない。
この駅からもう少し行ったところにあるコートが一番近いのだ。
だから学校が閉まっているときなどは、いつもこっちに来ていた。
「お前、ここまでそれで来たのか?」
自転車を指差して言う三井に頷く。
「バスケしに?」
ボールの入ったスポーツバッグに留まった三井の目が、ゲームを欲している目になった。
輝きを増した瞳を見、もう一度頷きながら、流川は三井とバスケがしたくなった。
流川ほどではないにしろ、三井は相当のバスケ好きだ。
そのせいかはわからないが、流川は三井との1ON1が一番楽しかった。
ワクワクドキドキなんて似合わない言葉を持ち出してくるほど楽しかった。
「正月からバスケかよー? お前本当バスケバカだな」
三井が手をポケットに仕舞い、自転車に跨がったままの流川に笑いかけた。
三井とバスケがしたい。
誰と待ち合わせているのか知らないが、関係のないことだ。
バスケの方が楽しいに決まっていると思った流川は、三井を誘うことにした。
「先輩」
「なんだよ」
「相手してください」
吐いた息が白いのは、既にワクワクドキドキしているからだ。
いつもそう高くない体温が今は少し上がっている気がした。
まっすぐ流川を見ている三井の目が細められていく。
「どうすっかなー、俺今から初詣行くんだけどなー」
完璧に、人をからかって遊ぼうという声をしていた。
流川が必死になって頼むような人間ではないということを三井は承知しているはずだ。
きっと冗談半分なのだろう。
待ち合わせの相手が来るまでここを離れる気はないのかもしれない。
しかし流川は、どうしても三井をここから連れ出したかった。
「じゃあそのあとでいいっす。今から神社まで行って、それからでいい。俺も初詣やるから」
初詣をする気なんてさっきまでは全くなかったが、三井と一緒ならしてもいい。
流川のこの反応に驚いたらしく、三井は目を瞬かせている。
流川自身、何となく変な気がしていた。
いつの間にか『三井とバスケ』ではなく『三井と一緒』の方を重視してしまっているような、変な気が。
「お前、よく喋るな……」
本当に本物か、などと言って覗き込んでくる三井から顔を背ける。
前にある道を直進すれば突き当たりが神社だ。
初詣に行くと思われる人たちが歩いているその間を、自転車で通り抜けなければならない。
やっぱりそんなにスピードは出せなさそうだ、と流川は思った。
「本物に決まってる」
「だよなぁ、お前みたいなの一人だけで充分だよなぁ」
自転車の後ろに力がかかった。
肩に三井の手が乗せられる。
後ろに人を乗せることがあまりないので、三井の重みと暖かさを新鮮に感じた。
「よっし行け楓号!」
「……」
妙な名前をつけられた流川は、後ろの三井に見えないのをいいことに眉をひそめた。
三井が機嫌を損ねて自転車から降りてしまったら、流川に引き戻す術はない。
機嫌の悪い三井に流川が何か言っても火に油を注ぐだけだと、今までの経験上よくわかっていた。
だから流川は何も言わずにペダルに足をかけた。
見も知らぬ待ち合わせ相手の所に三井を返すのは嫌だった。
初詣もバスケも、一緒にするのは俺だ。
そう思いながら、楓号は人波をすり抜けていった。





この話の中で流川の誕生日を覚えているのは母親だけ!(笑
初詣行くのにあけおめも言ってないこの人たち…。
かわりに私が言っときます。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
あ、ミッチーが待ち合わせてた相手は洋平じゃないです。(エピ入れ忘れたよ初っ端から

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