はかないもの




視界の隅が明るくなったのに気付いて、俺は鉄男の背中を叩いた。
「…?」
首を傾げるように鉄男が振り返る。
あぶねーよって口パクで伝えると、エンジンの音が小さくなっていった。
追ってきていたバイクも隣に止まる。
やかましいエンジンが切られ、代わりに少し間隔の離れたドン、って音が聞こえるようになった。
俺は真っ先にバイクを降りて、砂浜を駆けていく。
「あぁ、花火か。今日。いきなり止まるからびびったじゃねーかよ。」
後ろから呆れたような竜の声がした。


俺たちは並んで海辺に座って、咲いては散っていく花火を眺めていた。
大きな花火も小さなのも、寿命は同じだ。
一瞬で消えてしまう。
「…儚いな。」
感傷的になった俺が呟くと竜がげらげら笑い出す。
「うっわ似合わねー!」
「うっせぇんだよボケ!ちったぁ浸らせろ!」
怒鳴ったら余計笑われた。
俺はむすっとした顔で反対隣の鉄男を見た。
いつも通り無表情だろうと思っていたのに、鉄男は煙草を吸いながら笑っていた。
しかもイヤなカンジの笑い方で。
「確かにハカナイな。」
目を細めて見られる。
何か妙な発音だな、と思って俺は眉根を寄せた。
それから、俺じゃなくて花火見ろよ花火、とか心の中でつっこむ。
「あー、確かにハカナイねぇ。」
竜は鉄男の言いたいことがわかったらしい。
俺の肩に手を置いて鉄男に同意した。
「何がハカナイんだよ?」
たまにある俺にだけわからない話が、俺は嫌いだった。


「会った頃はもうヤダもう死ぬ生きててもしょうがねぇんだ殺してくれ〜!
 …とか言ってわめいてたのにな。」
答えてくれないからまた花火を見ていたら、竜が俺を真似るようにして言った。
俺は驚いて竜の方に顔を向けた。
竜は俺を見ないで花火を見ている。
そんなこと考えてたのかよ、と思って鉄男を振り向いたけど、こっちも同じく花火を見ていた。

弱音を吐かなくなったのは、お前らのおかげかもしんねぇな。
言おうとしたら花火の音が胸に響いてきて、そのまま飲み込んでしまった。
儚い花火をいいものだと思えるのは、お前らのおかげなんだ。
「…来年も見れっかな。花火。」
ぱらぱらと海の中に落ちていく火を見ながら小さい声で呟く。
ウケるところでもないのに、隣で鉄男が肩を揺らした。
「生きてたらな。」
「死ぬ気かてめーは。」
すかさずつっこむと今度は竜が笑った。
「いやー、何が起こるかわかんねぇぜー?」
「花火と一緒で儚いからなァ。」
「…お前ら俺をおちょくってんだろ。」


花火の音が消え、辺りが普段より暗くなった気がした。
やっぱり、儚い。
俺は立ち上がって二人を見て、
「俺より先に死んだらぶっ殺す!」
指差しながら言った。
ヘンな顔をしている二人を残してバイクまで歩いていく。
「死んだらぶっ殺すって…。」
「…。」

こうやってつるんでバカやってれば、俺は楽しかった。
こうしていれば、きっといつか全てを忘れてしまえるだろう。
いつかじゃなくて、すぐにでも。
何もかも全部忘れられる。
だから俺はもう、弱音は吐かないのだ。





私は鉄男と竜にとことんミッチーを甘やかしてほしいらしいです。
ところでいい場所っぽいのに人がいないのは何故でしょう。
1.穴場だった 2.恐い兄ちゃんがいるせいで誰も近付けない …2ですね、多分…。(笑)

その他まで
トップまで