|
無限ループ 鉄男に連れられてコイツはやってきた。 俺はコイツの顔を見て何も考えてなさそうなガキだと思ったけど何も言わなかった。 「はぁ?同い年?うっそだろー!老けすぎじゃね?」 鉄男が同い年同士話が合うんじゃねーかとか検討外れなことをほざきやがったのを聞いてコイツはげらげら笑った。 つまり何が言いたいかというと。 「テメェぶっ殺すぞ」 三井との初対面は最悪だったってことだ。 「なぁ竜」 呼ばれて反射的に振り向いた。 ヒマだと書いてある三井の顔を見ていきなり後悔する。 今この部屋に主である鉄男がいないせいで三井のワガママは全部俺に回ってきていた。 鉄男がいないときはいつもこうだ。 今日はどこまで買い物に行ったんだあの野郎。 「なんか面白いことねぇの」 「テレビでもつけろよ」 「えー、うざい」 俺はこんなのに付き合っていられるほど寛容な男ではない。 鉄男が何故こんなのを拾ってきて家に置いているのか俺には到底理解できないでいた。 しかも俺と『仲良く』させようとしているらしいのは一体何なんだ。 『まぁ仲良くしろよ』ってお前は三井の親か。 うちの子友達が出来なくてーってか。 ……気持ち悪い想像をしてしまった。 「ヒマだよなー」 知るかと喉元まで出かかったのを飲み込んでただの息に変えた。 応えたら神経を逆撫でるような言葉を聞くことになるということは何百回も経験してわかっている。 三井が何を喋っても無視してやろうと昨日と同じことを今また決めた。 鉄男は帰ってきたら今日も沢山文句を言われるだろうが構っても構わなくてもきっと同じだろうしそんなこと俺には関係ない。 まともな生活に戻ることを俺はあきらめているが三井はまだあきらめきれていない目をしている。 だから鉄男がもし三井を元の世界に戻すことを考えているなら俺と二人で置いておくのは逆効果だと思う。 俺は三井の視線も無視して雑誌のページをめくった。 こんなただワガママなだけの甘っちょろいガキとつるむなんて真っ平ごめんだ。 そう思っているはずなのに何故ここに来てしまうのだろう。 最初から俺は三井とつるむ気なんかなかったのに。 すぐ側の海から聞こえる波の音と紙を送る音だけが部屋の中を巡っていた。 「迎えに行くかなー……」 俺にヒマだ構えオーラを投げつけるのに飽きた三井の溜め息のあとの独り言に耳を疑った。 三井は鉄男を迎えに行く気らしい。 親というより恋人のようだとまた気持ち悪い想像をする。 ゲイなんてめずらしいものでもないがこの二人特に三井がそうだとは思えなかった。 そもそも三井が誰かに惚れているところが俺にはとても想像できない。 ふと三井は皆のものだと誓い合う馬鹿共を思い出してしまい胸糞悪くなった。 そんなこと誓って何の意味がある。 皆の物?三井はいつから物になったんだ。 好きならそれでいい。 同盟も協定も必要ない。 もしも三井が誰かを好きになりその相手と恋人同士になったとしてもそれは三井が決めたことなのだ。 ベッドから立ち上がった三井に反応してつい見上げてしまうと嬉しそうに口端を上げた。 確かに顔だけはいいなと思いながら小さく溜め息をつく。 「なぁ、付き合えよ」 三井は一歩俺の方に進み機嫌良く俺を見下ろした。 「……は?」 思い切り顔をしかめると首を傾げられた。 「下まで。鉄男、そろそろ帰ってくんだろ」 さっきあんなことを考えていたから少し驚いただけで勘違いしたわけではない。 確かに三井が告白するなら付き合ってくれではなく付き合えだとは思うが俺にそんなこと言うはずがない。 俺は鉄男の代わりだから鉄男が帰ってこればもう用済みなのだ。 鉄男といればいつも俺にはワガママを言ってこない。 今日最後の俺へのワガママに付き合ってやるのも悪くないかと思い何も言わず立ち上がった。 それを確認して三井が満足したように先に玄関に歩いていく。 風でギシギシ揺れる今にも潰れてしまいそうなボロアパートの階段を下まで降りるとちょうどよくバイクのエンジン音が聞こえてきた。 「遅ぇぞー!」 向かってくるバイクを見て三井が叫ぶ。 でかい二輪車は似合わない白いポリ袋を下げている。 あいついつもどんなツラして買いモンなんかしてるんだろうと思うと笑えてきた。 鉄男は三井と俺の間にバイクを停め三井はいつも通り鉄男からコンビニじゃなくスーパーのポリ袋を奪った。 「ちゃんと買ってきたかぁ」 そのまま踵を返し中身をあさりながら部屋に向かっている。 迎えにきたのに置いていくのが三井らしいと言えば三井らしい。 「何しに降りてきたんだ?」 バイクに跨ったまま頭をがりがり掻いて鉄男が不思議そうに呟いた。 「迎えにだ」 ここにいない三井の代わりに答えてやると今だかつて見たことのないような嫌そうな顔でこっちを見た。 やっぱりこいつも三井をうぜーガキだと思っているのだろう。 「迎えに?」 訊ねる表情は変わらないのにどことなく面白がっているように見える。 何を?三井をか。 「そう、迎えに」 それとも三井に付き合ってここまで来た俺をか。 確かにそうだった。 俺はおかしい。 「お前は」 「……付き合わされただけだ」 どうしてあいつのワガママに付き合ってしまったのだろう。 無視してやろうと決めたのにそれはまた守られなかったのか。 「へぇ、えらく仲良くなったもんだな」 ククッと喉を鳴らす鉄男にする反論は何もない。 仲良くなったわけじゃなっく情が移っただけだなどと言えば余計笑われるに決まっている。 「早くそれ置いてこねぇとまた三井が拗ねるぞ」 苦し紛れに顎でバイクを指し再び階段へ向かってゆっくり歩き出した。 エンジン音がアパートの向こうにある駐輪場へ去っていく。 ここで黙って帰れば三井がいない頃の生活に戻れるような気がして俺の足はろくに進まなかった。 部屋に荷物を置いているわけでもないのだから帰ってしまえばいい。 三井は部屋に入ったらしく今ここからは見えない。 俺は鉄男が来る前に踵を返そうとした。 俺が帰って三井が怒っても今度こそもう俺には関係のないことだ。 「竜!」 なかなか来ないのにやっぱり気分を害したのか部屋から出てきた三井が階段の上で俺の名前を叫んだ。 俺はまた反射的に見上げてしまった。 「おめーら早く来い!」 複数形で言われて振り向くと鉄男がいつの間にかバイクを置いて戻ってきていた。 「お呼びだぜ、竜」 明らかに面白がっている鉄男に舌打ちして仕方なく階段を上った。 階段の上で三井が待ち構えていた。 「何やってんだよ、遅ぇよ。ハラ減った」 俺は明日も三井を無視することに決めるだろう。 |