full moon




ピンポーン。
間の抜けた電子音が部屋に響いた。
水戸は何の返事もしないで扉へと向かった。
水戸の家に訪ねてくる中で呼び鈴を押す人間は、新聞の勧誘かあの男しかいない。
「…よう。」
扉の前に立っていたのは、案の定、三井寿だった。

三井が何のためにここに来るのか、水戸にはわからなかった。
あの時、三井は殺されそうになり、そして恥辱を受けた。
ここに来ればまたそうなることを理解しているはずなのに。
それでも三井は水戸の家に来る。

「…ミッチー。」水戸はベッドの側に立っている三井の腹をいきなり殴りつけた。
「げほっ、」
三井が腹を押さえてベッドに倒れ込む。
「倒れるならちゃんと倒れろよ。足、上げて。」
水戸は自分もベッドに上がり、乗りきらなかった三井の足を引き上げた。
そのままベルトを外しにかかる。
今日も三井は何も言わない。
邪魔な服を床に落として見ると、三井のものが少し大きさを増していた。
「…アンタ本当に殴られんの好きだよね。なんならもっとしてやろうか。アンタの好きそうなこと。」
軽蔑するような眼差しを向けられた三井の目に非難の色が映った。

水戸はろくな物がない自分の部屋から縛るものを探した。
あいにくガムテープぐらいしか見付からない。
跡が残らなさそうだと思いながら三井に手を上げさせ、適当にそれを巻き付けた。
「いい格好。」
皮肉を込めて笑うと、水戸の中に溜っている黒い液体が口から溢れ出た気がした。
うまく息が出来なくなってくる。
三井の胸にあった火傷の跡はすっかり消えてしまっていた。
水戸は大きく息を吐き、三井の身体を眺めた。

何を期待しているのだろう。
三井とこうしていれば、何かが変わるとでもいうのだろうか。
ドロドロした自分の中身が溶けて流れていくとでも?
自分に訊ねても、何の答えも浮かんでこなかった。

三井の口は縫いつけられているかのように、しっかりと閉じられている。
水戸はそれを冷たく見下ろし、三井の足を抱え上げた。
壊してやればいい。
「…、」
見開かれた目に捕えられる前に、まだ一度も触れていない部分に無理矢理割り入った。

三井の叫び声がやけに遠く聞こえた。
繋がっている部分から生暖かい血が流れ出ている。
快感より不快感の方を多く感じた。
だが、水戸は今までにないほど興奮していた。
自分の下にいる苦しそうな三井が滑稽で、可笑しくて、声を上げて笑い出す。
「初エッチがこれって、すげぇトラウマじゃねぇ?最高オカシイ。」
顔を背けて必死で息をする三井に向かって笑いながら吐き捨てる。
笑いが止まらない。
何を可笑しいと思ったのかさえ忘れてしまった。

三井の目が動いた。
水戸は笑うのをぴたりと止めた。
三井が水戸を見たまま、ゆっくりと口の端を上げる。

頭の中が真っ白になった。
何もかもわからなくなって、激しく腰を打ち付ける。
壊れたのは水戸の方だった。
「…み、と、」
名前を呼ばれても、返事は出来なかった。

どうやって終わったのかまったく覚えていない。
ベッドの上の三井の足の方、なるべく端へ寄って、水戸は煙草を燻らせていた。
三井は手首にガムテープを巻き付けたまま、泥のように眠っている。
しばらく目を覚ますことはないだろう。
後始末をしていないため、身体に付いた体液が凝固していた。
血の赤さが嫌でも目に付く。
腿のそれをこそげ落とそうとして指を伸ばしたが力が入らなかった。
身体を半分持っていかれたような気分がする。
それがいいことなのか悪いことなのか、水戸には判断できない。
今の水戸には全てがどうでもいいことだった。

水戸は水の入ったコップに煙草を捨てた。
ジュッ、という音を残し火が消える。
「…。」
床に足をつけたままベッドに寝転ぶ。
体を横に向けても三井の顔はよく見えなかった。
犯した部分が腫れているのが視界に入って、今更あの時指先に負った火傷が痛んだ気がした。
視線が膝に止まる。
ばらばらだった意識がそこに集中した。

悪いのはどっちの足だっけ。
思い出そうとして目を閉じたが思い出せずに、水戸はいつの間にか眠りに落ちていた。
真っ白な、眠りだった。





   end.

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