需要と供給 別に人を殴るのが趣味というわけではない。 殴られたそうな人間が寄って来た時に殴るだけだ。 「お前ぜってーオカシイ」 殴りすぎて手の関節のとこから血が滲んでいるのを見て、お前は何で殴ってばっかなんだ、それが趣味なわけか、とか訊いてきた三井に答えてやったら、宇宙人でも見るような目をしやがった。 そもそも訊きたいのはこっちだっての。何で二人でベッドに並んで座って話してんの。訊けるなら、特に、並んで、のところを訊きてぇな。そんなに気になったのかよ、今日に限って?ケンカなんて、いつものことじゃねーか。 「俺は別に殴られたかねぇぞ」 「そんなに殴ってねぇだろ」 「殴ってるじゃねーか。しかも首絞めるし」 だからそれは、そっちが殺して欲しそうにしてるからだ、って言ってるだろ。なんてことを、口には出さない。本当にこいつには自覚がないらしいから。 ……まぁ、その方がいいんじゃねぇかな、多分。自覚したら、もっと堕ちていってしまいそうだし。堕ちていく瞬間ってのを、個人的には見てみたいけど、バスケ部的にはマズいでしょ。 というわけで、首をすくめて、当たり障りのないことを言う。 「本気じゃねぇよ」 三井が首を横に振り、指を突きつけてきた。 「お前は殺すつもりだね、絶対」 いやいや、本当にねぇんだよ、アンタを殺す気なんて。今は。 胡乱な瞳を手で追い払って、顔を背ける。 「殺さねぇって」 アンタがバスケしてる間は、殺す気はねぇよ。バスケ止めるって言うのなら、それこそ絶対ぶち殺すけどさ。 「そうなのか?」 だから、その残念そうな目は何なわけ。やっぱアンタは殺して欲しいんじゃねぇかよ。 「そうですよ」 結局、何でこんな話をしてるのか、何で並んで座ってるのか聞けないまま、会話は終わってしまった。 もし今殺してくれって言われたら、多分殺すだろうな。さすがに人殺したことはないけど、三井を殺すのに、きっと躊躇はしない。むしろ嬉しい。三井が自分の手に掛かって死ぬ、ということが、嬉しいと思う。 どうやって殺そう。この人が望んでるのは絞殺だろうが、他にいいのはねぇかな。刺殺は趣味じゃない。撲殺……もあんまり乗れない。毒殺は自分で殺したって実感が湧かなさそうだから、却下だ。傷もつかないし、望み通りにしてやるのは癪だけど、絞め殺すのが一番か。 まずは暴れないように縛ろう。死ぬって分かってても、人間ってのはいざとなったら抵抗するもんだ。手だけじゃ不十分だな、足も縛ろう。それから、何も言うこともないから、首に手を伸ばす。ゆっくり絞めていく。三井の顔が快感で歪む。きっと、いつもより綺麗に。 息をしなくなっても、すぐには手を緩めない。生き返ったら大変だ。三井の最後は、誰にも渡さない。口からりんごの欠片は出てこないから、冷たくなったらキスでもしてみるか。 死体はどうしよう。食うか? あぁでも、そしたら傷付けないと駄目だよな。それは嫌だ。うまくいくか分からないけど、どこかから防腐剤でも調達してきてみよう。そのままの状態で保存できるのが一番いい。もっとでかい部屋を借りなきゃなんねぇな。 「なぁ、水戸」 殺す算段をされているとは知らずに、三井が呼びかけてくる。 「ん?」 殺す算段をしているとはおくびにも出さず、視線を向けた。 「……」 物欲しそうに濡れた目。そーゆーの、他のヤツにもしてるんじゃないだろうな? ふらふらしてるアンタを見てると、ちょっと心配になる。別に付き合ってるわけじゃないから、何も言えないけど。 小さな溜め息をつくと、顔が近付いてきた。触れた唇はまだ暖かい。……まだ、じゃねぇな、今殺すわけじゃないんだし、暖かいに決まってる。 三井からのキスは二秒で終わる。向こうから舌を入れたりはしてこない。何か、なんだろうね、プライドなのかね。わっかんねぇよな、ヤられに来てるくせに。 「あー、そっか、アンタは殴られたいんじゃなくて、ヤりてーんだ」 閃いたように、てのひらに拳を打った。キスしてくるぐらいだから、こっちは自覚あるんだよな? 間近にある三井の顔が引き攣る。怒んなよ、図星だろ。って、図星だから怒んのか。 「じゃあ今日もしてあげますよ、エッチだいすき三井せんぱい」 何も言ってこない三井に微笑みかけて、押し倒した。目も合わせてくれねぇよ、この人は。眉間の皺がすげぇ深くておもしれぇ。 「……お前一回死んでこい」 組み敷かれたままで、三井が低く呟いた。なんだ、結構寛容だな。一回でいいのか。 ……ん? ちょっと、待てよ。否定しろよ。いいのかよ、エッチだいすき三井せんぱい、で。 「水戸?」 見上げてきた三井は殴って欲しいって顔をしていない。殺して欲しいって顔でもない。端的に言えば、エッチだいすき三井せんぱい、……の、顔をしている。 「……アンタぜってーオカシイ」 「だからそれはてめーだ」 そうだな、俺も、おかしいのかもな。アンタのこと好きすぎて、元からちょっと変だったのが、増長しちまったんだ。つまりあれだ、アンタのせいなんだよ、俺がおかしいのは。 アンタが変なのも俺のせいなら、お互い責任とって、これからも側にいるってのはどうだろう。 それならほら、死にたくなったらいつでも殺してあげられるし。 虐めて欲しいなら存分に虐めてあげられる。 ヤりてー時は、干涸びるまでヤりつくしてあげるよ。 普段と比べれば気持ち悪いほど優しいセックスのあと、そう提案すると、 「……プロポーズみてぇ……」 照れた三井が手で口を覆って、もごもごとふざけたことを言ったので、とりあえず、干涸びるまでヤりつくしてみることにした。 腹上死ってのも、案外いいかもしれねぇなぁ。 |