クリスマスの日、俺にはやりたいことがある。 まずは三井さんを家に呼ばなければならない。 俺のやりたいことというのは、三井さんがいなければできないことなのだ。 どうやって呼ぶか。 あの人のことだから、食い物をちらつかせれば何とかなるだろう。 『イヴの夜、うちでメシでもどう?』 もし、そういうのは女に言えよ、とうんざりした様子で見下ろされたら、こう止めを刺す。 『ワインも肉もケーキもあるよ』 これなら十中八九断られることはないだろう。 あの人は酒と肉と甘いものが好きだから。 俺は間違ってはいない。 確かにワインも肉もある。 ケーキはどこかで調達しておこう。 三井さんが家に来たら、最初に風呂に入らせる。 どうせバスケしてから来るのだろう。 汗くさいのは勘弁してほしい。 服は全部洗濯機に放り込むから、着替えがないと言ってタオル一枚で出てくるかもしれない。 そうしても寒いと感じないよう部屋は暖めておく。 寒いからって風呂場から出てこなかったら、どうしようもないしな。 それで俺は台所に立つ。 シチュー用の野菜の下ごしらえをして、グラスをふたつ用意して、烏の行水の三井さんを待っている。 ケーキは邪魔になるから、まだ冷蔵庫にしまっておく。 『水戸、俺の服は?』 『洗濯してるよ、汚れないように』 風呂から出た三井さんは矛盾した俺の言葉に首を傾げる。 俺は野菜を切るのに使ってそのまま放置していた包丁を持ち、風呂上がりの火照った躯にそれを振り下ろす。 エプロンをしておいた方がいいな。 防水加工のやつ。 切りすぎたら返り血を浴びてしまう。 三井さんはどうするだろう。 叫ぶ? 逃げる? 泣く? 何でも構わない。 一度であまり血が出なければ、何度でも切りつけよう。 死ぬのが早くなってしまうから、刺しては駄目だ。 それと、三井さんがどれだけ暴れても手に傷を付けてはいけない。 手は綺麗なままにしておきたいんだ。 血がたくさん出ているところに、さっき出しておいたグラスを片方ずつあてる。 半分ぐらいまで注いだら、ワインらしく見えると思う。 縁につかないようにするのは大変そうだから、ついたら拭くことにしよう。 きっと三井さんは、もう動けなくなっている。 暴れる力もないだろう。 俺はぐったりした三井さんの躯を椅子に縛り付ける。 ずり落ちないように、でも締めすぎないように。 ヒモは確か、そこらの引き出しの中に仕舞ってあるはずだ。 あとで確かめておかなければならない。 『血が足りねぇ』 憎まれ口を叩かれるかどうか、その力が三井さんに残っているかどうかは定かではない。 どっちにしろ、俺はワインよりもどろどろとした液体の入ったグラスを、三井さんの口元に近付ける。 飲めばそれでいい。 『ワインじゃねぇ』 『ワインだよ』 飲まなければ、無理矢理飲ませる。 鼻をつまむか、それとも、口移しで。 吐いても嫌がっても、全て残らず飲ませてやる。 それが終わったら、もう片方のグラスの中の三井さんの一部だった液体を、今度は自分の口に流し込む。 噎せ返るような、新しい血の匂い。 三井さんの味だ。 確かめるように少しずつ嚥下する。 生温いものが食道を通り、胃に入って、徐々に俺に吸収されていく。 このままグラスを置いていたら、あっという間に冷たくなってしまうだろう。 部屋を暖かくしたとはいえ、今は真冬なのだ。 だから俺は、一口味わったあとはすぐに全部飲み干してしまうつもりだ。 冷たい血など、飲みたくはない。 洗い場の下の収納スペースから、夏に買ったあるものを取り出す。 三十センチほどの長さの大工道具。 よく切れると評判のものを買っておいた。 まだ一度も使っていないから、評判通りならギザギザした刃の切れ味はいいはずだ。 それを持って、浅く息をしている三井さんの側に近づく。 三井さんがどんな顔をしているか、俺には想像がつかない。 きっと綺麗な顔をしていると思う。 もし顔に血が飛んでいたら、拭いてあげよう。 どっちからいこう。 右か左か。 両方一気に鍋に放り込むなら、かなり大きなものが必要になる。 大食いの花道のために大きな鍋を使っているが、それでもこれでは片手が辛うじて入るぐらいだ。 シチューが出来る頃には、きっとあんたはもういない。 安らかに眠れるように、瞼にキスしよう。 残っている片手は、丸ごと焼いて食べようかな。 やっぱり煮込んだ方が、残さず食べられるかな。 あんたの手が大好きだから、指先まで全部欲しいんだ。 傷ついた左足は、細かく切り刻んで焼いて食べる。 そしたら小さな痛みぐらいどうってことなくなるよ。 右足は何ともないから、ミンチにして何かに使おう。 あんたの好きな料理にしてあげる。 躯は難しいな。 内臓ってどうやったら美味しく食べれるんだろう。 何か入れて蒸し焼きにする? そういえば、ソーセージって腸使ってあるんだっけ。 この辺は、先に調べておいた方がいいね。 それにしても、これ一日で全部食べられるかな。 俺、元々そんなに食べないし。 胃が破裂したらどうしよう。 でもあんたの躯だから、全部食べるよ。 吐き出さないで全部食べて、俺のものにするよ。 首から上は切り離して、袋につめて持ち出そう。 ゴミ袋だと怒るだろうから、あんたの頭が入るぐらいの袋を買わなきゃいけない。 すぐそこの廃ビルまでなのに、面倒くさいなぁ。 怒られるのは嫌だし、仕方ないか。 忘れないように、箱詰めされたケーキを袋の中に入れていこう。 廃ビルだから電気も通ってないんだ、あそこ。 夜の暗い中七階まであんたの頭抱えて上がるのは大変だろうな。 屋上に出たら、冬なのに汗だくって状態なんじゃないかな。 あんたは相変わらず冷たいままだと思うけど。 屋上から明るい道がある方を見下ろしても、誰もいないと思う。 この辺は人が少ないんだよ。 ちょうどいいだろう? ケーキを箱から取り出して屋上の縁に置こう。 きっと原形を留めていないだろうな。 ここまで来るのに振ってしまっていると思うから。 それでもいいよね。 あんたは食えればいいんだろ? こんなこと言うとまた怒るよな。 本当にからかい甲斐のある人だよ、あんたは。 それじゃあ、先にあんたの頭を落とすよ。 ケーキは落とさないから、あとで一緒に取りにこよう。 大きさも同じぐらいだし、混ざったらわけわからなくなるだろ? ぐしゃって潰れた音がしたら、街灯の光を頼りに目を凝らして、落ちたあんたを目に焼き付ける。 潰れたあんたをずっと見てるよ。 それから俺もそのまま堕ちて、 あんたの隣でバラバラになるんだ。 メリークリスマス |