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新しい感情(2) テストが返ってきた。 赤点4つ以上でインターハイに行けないなんてことすっかり忘れていた俺は 見事に赤点を4つ取ってしまい、勉強合宿なるものに参加させられることになった。 昨日から律ちゃんは友達と旅行に行っている。 帰ってくるのは明日らしい。 水戸もバイトで遅くなるとか言ってたから、 なるべく早く帰って久々にオヤジと二人でメシ食おう! …って思ってたのに…。 まぁ、しょうがねぇよな。 インターハイの方が大事だもんな。 オヤジとメシ、ならいつでも食えるし。 とにかく勉強だ、勉強。 そういえば電話とかした方がいいか。 と気付いたのは今日が終わる少し前だった。 もしかしてオヤジ、また俺がグレたのかとか心配してるかも。 かなり遅くなっちまったけど連絡した方がいいよな。 そう思った俺は勉強を中断して電話を借りることにした。 「赤木、電話借りるぞ。」 「あぁ。」 受話器を取り家の電話番号を押す。 呼び出し音が5回鳴って、声が聞こえてきた。 「もしもし。」 …オヤジじゃねぇ! いつもなら絶対オヤジが出るはずなのに、聞こえてきたのは水戸の声だった。 俺はものすごく焦った。 俺たちが兄弟になったことは、誰にも言っていなかった。 俺も水戸も。 桜木と残り3人にはすぐバレるんじゃないかと思ってたけど、 どうやってんのかアイツは上手く立ち回ってて、未だに誰にもバレていない。 俺の方は別に家も電話番号も変わってないから、やっぱり誰にもバレていなかった。 「…俺だけど。」 平静を装って、俺は回りを警戒しながら声を出した。 「あ、ミッチー?」 のほほんとした調子で水戸が言う。 こっちの気も知らないで。 「ああ。」 ちょっとイライラしてくる。 「今どこ?おせーじゃん。」 「赤木んちで勉強だよ。だから今夜は泊まる。」 ほんとは帰りてぇけど勉強しなきゃやばいんだよ。 …俺、こんなに家好きだっけ。 「あぁ、そうなんだ。」 そうですよ。 クソ、何でこんなに苛ついてんだ。 機嫌良さそうな水戸がムカついてしょうがない。 「ああ。」 いきなり怒り出すと勉強中の面々に変に思われるので、短く返事をした。 平常心、平常心。 と思ってたのに、からかうような水戸のセリフに全部ぶち壊された。 「ほんとかよ?そんなこと言って、女の家にいるんじゃねーの?」 は?女? ふざけたこといってんじゃねーぞコラ。 …勉強モードで疲れている頭では冗談だと気付けなかったのだ。 「本当だって、バスケ部の連中で集まってんだよ!ベンキョーしてんの!ベンキョー!」 イライラが頂点に達した俺は一気に捲し立てた。 皆が驚いてこっちを見ているのに気付き、マズった、と後悔する。 水戸は電話の向こうで笑っていた。 …ムカつく、けど、今度こそ平常心を保たねぇと。 まったく、なんで俺がこんな苦労しなきゃいけねーんだ。 「ごめん、知ってる、あの時俺もいたし。花道も言ってたから。」 笑いを堪えながら途切れ途切れに水戸が言った。 「ああ…。」 だよな、いたよな、そうだよな。 って、知ってるならからかうなっつうの! 帰ったら絶対殴ってやる、と俺は決意した。 「勉強頑張ってね、ミッチー。」 「わかったよ。じゃ…。」 顔を顰めて受話器を置こうとすると、水戸が呟くのが聞こえた。 「…おやすみ。」 …あれ? 応えずに電話を切ってしまったあと、何となく水戸の様子が変だったような気がして 俺は受話器を見つめた。 なんか、元気なくなかったか、今。 …いや、気のせいだよな。 受話器が離れてたからだよな。 あのヤロウ、俺がいなくて快適だって思ってんだ、きっと。 そうに違いない。 あー、ムカつく。 「少しは息子を信用しろよ…。」 皆に背を向けたまま溜め息をつきつつ呟いた。 怒鳴ったせいで注目されちまったし、なんつーの?カムフラージュ? 多少良心が痛むけど…水戸と兄弟だなんてやっぱあんま知られたくねぇし。 「……親不孝したからなあ。」 特に知られたくない相手に言われて、めちゃめちゃ吃驚した俺は勢いでがなった。 「なにィ!?7つも赤点ある奴がゆーな!!」 「んだとォ!?」 振り向いた桜木に赤木の鉄拳が落ちる。 俺はホッとしたけど、息はつけなかった。 普段ならホッとするとこじゃねーから。 桜木だけには多少どころじゃなく良心が痛んでいた。 あいつらは親友で、水戸は親友に隠してるってことだろ。 だからって俺がびくびくしなくてもいいような気がするけど、 …まさか俺にも兄貴の自覚っつうモンが芽生えてきたっていうのか? 冗談じゃねぇぞ、と思っても痛むものは痛むんだよな…。 というか、俺がこうなんだから、水戸はもっと辛いんじゃねーか? 元気なかったのはそういうこと考えてたせいなのかもしれない。 再び机に戻った俺は、勉強とは全く関係のないことを考えていた。 とりあえず、帰っても殴るのは勘弁してやろう。 |