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勝敗の行方 三井にはどうも腑に落ちないことがあった。 水戸が何故やらせてくれないのか、ということだ。 今の状態が、抱かれるのが嫌だというわけではない。 ただ何となく不公平な気がするのだ。 三井も男だから。 いつも通り水戸の部屋で、隣に座って軽いキスをする。 しかし今日三井は、しなくてもいのに緊張していた。 てのひらが汗で湿っている。 「なぁ。」 真剣な表情をしてすぐ目の前の水戸を見つめた。 心臓が口から飛び出そうだ。 そんなことがあるわけないとわかっていたが、三井は抑えようと唾を飲み込んだ。 「…俺もやりてぇ。」 意を決し告げると、水戸の顔から余裕が消えた。 だがそれはすぐに取り戻される。 水戸は少し考えるように目を伏せ、上目使いで三井を見た。 「…そうなの?」 「…そうなの。」 イントネーションだけ変えてオウム返しする。 それを聞いて水戸はまた目を伏せた。 「そっか。」 呟いた水戸の声は思ったより冷静だった。 三井は息を潜めて、水戸が続きを言うのを待つ。 この際このまま襲ってしまうというのもありかもしれない。 「…。」 そんな三井の考えに気付いたのかどうかは知らないが、 水戸は涼しい顔で三井からわずかに体を離した。 「やだよ。」 顔を背けて淡々と水戸が言った。 「アンタにやられるなんて絶対嫌だね。早いし。下手だし。」 三井は顔を顰めた。 そこまで拒絶されるとは思っていなかった。 しかも早いのはともかく、下手だとまで言われるとは。 確かに水戸よりは下手かもしれないが、 そこら辺にいる普通の高校生よりは上手いという自信が三井にはあった。 実際水戸とこうなる前、女の子には上手いと言われていたのだから。 こめかみの辺りがジリジリしてくる。 「お前と同じようにすりゃいいだけだろ。」 あからさまに不機嫌な声で吐き捨てた。 男をやったことはないが、思い出しながらすれば何の問題もない。 三井はそう思っていた。 水戸が顔をちょっとだけ三井の方に向けた。 心底嫌そうな目が三井を見ている。 「…そんなに嫌なのかよ?」 三井の問いかけには答えずに水戸は再び目を逸らした。 いつもやられている三井の立場はどうなるんだ。 そんな思いだけで、怒りも呆れも出てこない。 三井の気分が最低に落ち込んでいく。 「…そんなにやりてぇのかよ?」 項垂れた三井に水戸が声をかけてくる。 頭に手が乗せられた。 「俺にやられんのが嫌なわけ。」 不安の混じった声だった。 三井は首を振ろうとしたが、手を振り払われたのだと思われそうで止めた。 今それをするとこじれそうだと思った。 そのままの状態で少し顔を上げる。 「…ちげーよ。たまにはやりてぇって思っただけで。」 三井は何も満足していないわけではない。 いつも反応を見ている水戸にはそれがよくわかっているはずだった。 「自信ねーのかよ。」 口を尖らせて言うと、水戸が子供のような顔をして笑った。 下ろしている前髪が揺れる。 「そうでもねぇ。」 手の重さが三井の頭から離れていった。 三井はまたギリギリまで水戸に近付いて、嫌がられた時用に考えていたセリフを言った。 「なぁ、じゃんけんしようぜ。勝ったらやらせろ。」 三井はじゃんけんが強い。 今まで負けたことは数えるほどしかなかった。 だが水戸はそのことを知らない。 ちょっとずるいかもしれないが、たまにはやらせてくれたっていいだろう。 「…俺が勝ったら何してくれんの。」 水戸は三井の提案をあっさりとは飲まない。 そこまで考えていなかった三井は一瞬言葉に詰まった。 「…いつも通り?」 「それじゃつまんねーな。」 答えが気に入らない様子の水戸が首をすくめる。 仕方がないので、三井は最後の手段に出た。 「…なら好きにしろ。」 勝てるという自信がなければ到底吐けない言葉だった。 「それじゃあ好きにさせてもらうよ。」 満足して微笑む水戸に三井は、余裕な顔をしていられるのも今だけだ、と口端を上げる。 「お前が勝ったらな。」 「恨みっこなしだぜ、三井さん。」 「おうよ。」 絶対に勝つ、と闘志を燃やし、三井は手を差し出した。 「じゃん、けん、」 声が重なる。 「ホイ。」 出された手は開いているのと、閉じているのだった。 どちらも動かない。 しばしの沈黙。 沈黙。 …。 「………もう一回、」 「却下。」 |