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洗い物を終えた洋平は台所に立ったまま、 ベッドでごろごろしている三井に声を掛けた。 「今日はどうすんの?」 気の抜けた三井の返事を聞き流し、勝手に話を続ける。 「泊まってく?それとも帰る?」 時計の針は九時を少し回ったあたりを指していた。 ベッドが軋む音がして三井が起き上がり、時計を見ながら頭をかいた。 「あー…今日は帰る。」 「そう?」 微妙な訊き方をすると体全体で頷いた。 「あんま外泊ばっかしてるとマズイだろ。」 「そうだね。」 洋平が近寄ってくるのに気付いて、三井は手を伸ばしてきた。 「何時に帰んの。」 手を取らずにいると腕を掴まれる。 振りほどきはしないで、洋平は三井の前に立った。 「…十時ぐらい。」 「てことはあと一時間もないな。」 「んー。」 掴まれた腕を引っ張られ、バランスを崩した洋平がベッドに膝をつく。 三井の肩で体を支えた。 「…何、触り溜め?」 抱き寄せられて、笑いながら三井を見下ろす。 「そう。」 洋平の胸に顔を埋めている三井がくぐもった声で肯定した。 「キスの方がいいでしょう。」 おどけてそんなことを言い、顔に手をかけて上向けさせる。 「おう、そっちがいい。」 三井も笑って同意した。 顔中にキスを降らせると、三井はくすぐったそうに目を閉じていた。 唇には軽く触れるだけですぐに離れる。 顎の傷を舐めたらやっと目を開け、ねだるように首を傾けた。 「もっと口。」 「へいへい。」 やる気のない言葉を返しながら唇に噛みつく。 変な体勢で、苦しそうに顔を歪めている三井の舌が口の中に入ってきた。 背中に回された腕が洋平を逃がすまいと力を強くする。 しばらく三井に応えたあと、洋平は唐突に三井の顔を引き剥がした。 物足りないらしい三井が恨めしげに洋平を見上げる。 その様子に苦笑いし、もう一度軽いキスを落とした。 「あんまりやると帰れないだろ?」 少し間があって、三井は渋々了解した。 「じゃああとは触り溜め。」 ベッドに寝転び隣に空間を空けて洋平を呼ぶ。 気のない返事をしながら洋平はそこに潜り込み、三井を抱きしめた。 目覚まし時計に視線を向ける。 「あ、もう十時過ぎてる。帰んねーの。」 目の前の三井に向かって訊ねると思いきり顔をしかめられた。 「…帰る。」 起き上がろうとしない三井を置いて洋平はさっさとベッドから離れ、 三井のカバンを手に取った。 床にあったタオルをそれに詰め込み、起き出してきた持ち主に渡す。 受け取った三井はしっかりしない足取りで玄関へ歩いていった。 洋平も三井のあとを追う。 「何も忘れてない?」 「たぶん。」 定期がありゃいいだろとか言う三井にホントかよ、と返して首をすくめる。 三井が靴をはき、カバンを持って扉を開けた。 当たり前だけど空は真っ暗だった。 「じゃあ、気を付けて。」 「おう。また明日。」 明日も来る気でいるらしい。 「ん、また明日。」 嬉しくなって笑みを溢し、三井を見上げた。 触り足りないのか、三井の手が洋平の手を掴んだ。 「…明日は泊まる。」 「うん。」 温もりに安心して頷くと顔が近付いてきて、頬に唇が触れた。 「…じゃな。」 「おやすみ。」 照れた三井が小走りで廊下を通り階段を降りていく。 洋平は扉の前の手すりのところまで出ていった。 光が少なくてよく見えないが、この下に来たら三井は洋平を見上げるだろう。 そうしたら、手を振って。 『また、明日。』 |