新しい家族




謹慎中、俺は母さんにとんでもないことを言われた。

『私、再婚するわ。』

頭の中が真っ白になった俺は口を開けたまま呆然と立ち尽くした。

『今度相手の人に会ってね、洋平。』

冗談じゃない。
本当に、冗談じゃない…。


花道の試合の応援に行った帰り、俺は暗い気分で相手の家に向かっていた。
『向こうの息子さん、部活で忙しくて今日しか時間がないから絶対来てね。』
そんなこと俺が知るかっての。
でも反対するにしても相手に会わなきゃどうしようもないからな。
まぁ、母さんを任せられるような相手なら、再婚も悪くないんだけど。
あの人抜けてるからだまされてたりしないだろうな…。
足下を見ながら溜め息をつく。

のろのろ歩いていると後ろから声をかけられた。
「…水戸?」
立ち止まり振り向いた俺の後ろにさっき別れたばかりの男が立っている。
「三井さん…?」
「お前、バイトなんじゃなかったのか?」
そう、俺はバイトだと言って先に抜けてきたのだ。
しかしここは住宅街で、バイトをするような店はなかった。
「…あー…まぁ、ね。」
俺は言葉を濁した。
「三井さんは?家この辺なの?」
「あぁ。」
眉間にシワを寄せながら頷いて歩き出す。
俺も後に続いた。

嫌な予感がした。
ポケットから地図を取り出して広げる。
…やっぱり。
いやまさか。
俺はずっと三井さんの後ろについて行った。

『赤い屋根の家を右に曲がった所
 表札は三井
 迷わず来てね』

…まさかなぁ。
俺、こんな兄貴いらねーよ…。

三井さんの後頭部を見て2度目の溜め息をつく。
三井なんて名字そこら中にたくさんあるじゃねーか。
俺はそう思おうとしたが、三井さんは赤い屋根の家を右に曲がってしまった。
そして、そこにある三井という表札の家の門に手をかける。
頭が痛い。
ふらふらしている俺を三井さんが振り返る。
「お前どこまでついてくる気だ?」
家の中までついていきますよ。
とか答えたりはせずに、俺は三井さんの家の呼び鈴を押した。
三井さんの顔から血の気が引いていく。
やっと気付いたようだ。
微妙な空気をまとった俺たちを、三井さんの父親と俺の母親が笑顔で迎えた。


俺は反対しようにも出来なかった。
三井さんの父親が、本気で俺の母親を愛していることがわかったから。
俺の代わりにちゃんと、守ってくれそうだから。
だまされてもいないみたいだし。
反対する理由がない。
三井さんも、不機嫌そうにしていたが反対する素振りは見せなかった。
これからは兄弟になるのか…この人と…。
俺は皆に気付かれないように、また溜め息をついた。


「なぁ、水戸。」
ソファで待機中の俺の隣に三井さんが座った。
「何。」
「…こないだのアレは忘れろよ。」
目を合わせずに言われる。
アレってのは、あれだ。
三井さんがバスケ部に来た、あの辺の話だ。
…ってそれはどっちかというと俺のセリフなんじゃないか?
そう思って聞き返してみた。
「アレって?」
舌打ちが聞こえてきたあと、三井さんが俺に顔を近付けた。
「…わかってて言ってんだろテメェ。弟のクセに。」
「何だよそれ、弟とか思ってないクセに。」
「お前だって兄貴だとか思ってないだろ。」
よくおわかりで。
「思ってない。」
俺はきっぱりとそう言った。
「…。」
三井さんはしばらく押し黙っていたが、やがて口を開いた。
「…とにかくよ、今までのことは白紙に戻して、仲良くしねーと…。あいつら、心配するだろ。」
仲良く後片付けをしている両親を一瞬横目で見て、目を伏せた。
今まで迷惑かけてきたから、幸せになってほしい、ってことか。
俺たちのことなんか気にせずに。

父親も息子も申し分ない。
母さんも俺も楽しくやれそうだ。
…俺は、多分。

アホだけどこの人のこと別に嫌いじゃないしね。

「いいよ。」
俺は覚悟を決めた。
「これからよろしく、三井さん。」

でも兄貴とは呼ばねーぜ。

アンタみたいな兄貴、いてたまるかっつーの。





次へ

こんなかんじで義兄弟です。
父母の出会いとかはあんま詳しく考えてないです。
そして洋平はともかく、このミッチーはファザコンです。