私を旅館に連れてって。その1




卒業旅行なんて行っていられない。
もっともっと練習しなきゃ駄目だ。
…でも、たまには息抜きも必要だよな。

後輩たちに説き伏せられ、俺たちはとある旅館に向かっていた。
温泉に一泊旅行。
男ばっかで。
マネージャーのひとりは用事があるらしく不参加だった。
もうひとりもこの男だらけの中に女一人はさすがにヤバいので不参加。
ということでむさい空間なのだが、ま、それも悪くねぇかな。
華がある方が、モチロンいいけど。

「花ならいるじゃん、桜木花道が。」
「ぬ?オレがどうしたのだリョーちん。」
「…さみーぞー宮城ィ。」

なくてもそれはそれで。


こぢんまりとした旅館だった。
でも雰囲気はいい。
木造平屋建てで…離れも一部屋ある。
その側に池が見えた。
俺あの部屋がいーなぁ。
庭は綺麗に整備されていて、白い花が咲いている。
水をやったばかりの葉っぱがきらきらしていた。

「いらっしゃいませ。」
出迎えたのは水戸だった。
そう、ここは水戸の実家なのだ。
「洋平、帰ってたのか。」
桜木が意外そうに言った。

水戸は今一人で暮らしている。
母親の再婚で実家になったこの場所に、どうも馴染めなくてさ、とあいつは言っていた。
ここに俺の居場所はないんだよね、って。
言われても俺にはよくわからなかったけど、それから俺はあいつの居場所になった。
つまり俺と水戸は付き合ってるってことだ。
…皆には内緒で。


「手伝い兼見張りにな。騒いで物壊されちゃたまんねーから。」
首をすくめて笑う水戸に、赤木が神妙な面持ちになる。
相変わらず冗談の通じないヤツだ。
「迷惑はかけん。」
赤木がキッパリ言ったので、コイツ酒抜きのつもりじゃねーだろうな、と俺は不安になった。
今日ぐらいハメ外したっていいだろ。
最後なんだし。
そういう顔の俺を見て水戸が話を変えた。
「ま、ゆっくりしてってよ。今のバスケ部メンバーで集まるのも最後なんだし。」
そう言って歩き出した水戸の隣で桜木が口を尖らせる。
「最後じゃねーぞ洋平。」
「…でも、しばらくは無いだろ?」
水戸が自分に言い聞かせているように、俺には聞こえた。
「…。」
桜木が予想以上に沈んでしまったので、俺たちはロビーに向かう水戸に静かについていった。
いつのまにか他の一年たちも元気がなくなっている。
水戸は微妙な空気になるきっかけを作ってしまったことを、ちょっと後悔しているようだった。

旅館は俺たちの貸し切りだ。
水戸のオヤジさんが快諾してくれたらしい。
すげーよな、温泉貸し切りなんて。
マネージャーたちも来ればよかったのになぁ。

「そういや部屋はどうするんですか?」
キョロキョロしている宮城に水戸が訊ねた。
宮城は大部屋で雑魚寝、と思っていたらしいのだが、水戸のおかげで部屋を借りることが出来たのだった。
部屋割りは一応決めて来ていた。
宮城がメモを取り出しながら答える。
「あぁ、決めてきたぜ。5部屋だったよな。」
じゃんけんの結果俺はよりによって桜木と流川という最悪の組み合わせの三人部屋に決まっていた。
俺、誰がなんと言おうと絶対あの離れでひとりがいいんだけど。
夜寝る時ぐらいゆっくりしてーんだよ。
あの二人だと俺がいない方が何事もなく夜が明けそうだしな。
俺が間に入ると余計ややこしくなることぐらい、自分でもわかってる。
水戸がいなきゃ気付かなかったけど。
「なぁ水戸。」

俺はここの本館が5部屋であることを知っていた。
何故なら来たことがあるからだ。
夏休みに水戸の家に行った時たまたまオフクロさんが来て、速攻バレちまって、
それで冬休みに遊びに来たのだ…ってそれは置いといて。
つまり今日離れは空いているはずだ。


「俺、離れがイイ。ひとりで。」
というわけで俺は水戸にそう言った。
「え、ちょっと三井サン、もう部屋割り決めたでしょ。」
宮城が顔を顰めながら俺を見上げる。
でも水戸は予想していたとでもいうように苦笑いした。
…触りてぇ。
元々スキンシップ好きの俺は、水戸に対してかなりスキンシップ過多だった。
無意識にも、意識的にも触ってるから当然かもしれない。
「離れだと俺と相部屋になるけど。」
水戸が笑うのを止めて言った。
あ、そうか、あそこ、水戸が泊まるのか。
「それでいいぜ。」
俺は頷いたが宮城が首を横に振った。
「それじゃ花道と流川がやべーって…、」
後輩思いなんじゃなくて、『騒いで物壊されたらたまんねーから』だ。
あのふたりが犬猿の仲だってことは周知の事実なので、心配する気持ちはわからなくもないのだが。
「平気だろ、あいつら俺がいねー方が上手くやるって。」
何とか宮城を説得しようとする。
「それに、水戸ん家ブッ壊すようなこと、しねぇだろ。あいつらも。」
宮城は溜め息をついて、とうとう
「確かに、そうかもしんないっすね…。」
と呟いた。
俺は頬が緩みそうになるのを堪えた。
卒業式だのなんだので、最近あんまり水戸とゆっくりする時間がなかったのだ。
だから、夜だけでも一緒にいたかった。
酔って寝てしまうかもしれないけど、それでも一緒にいたい。

宮城キャプテンのお許しが出て喜んでいると、今度は水戸が渋りはじめる。
って、何でだよ。
「俺、バスケ部じゃねーけど。ホントにいいの、ミッチー。」
いいって言ってんのに、何を気にしてるかな、今更。
いや、わかってるぜ。
水戸よりあいつらと会う時間の方が残り少ないってこと。
それを気にしてるんだよな。
…バスケ部じゃねーっていうのは、気にしてないよな?
それこそ今更だ。
ずっと応援してくれてたじゃねーかよ。
バスケ部みたいなモンだ。
「いいって、どーせ寝る時だけなんだし。」
俺は不機嫌な顔で水戸を見た。
せっかくお許しが出たんだから、宮城の気が変わらないうちに、いいって言えよ。
「…しょうがねぇなぁ。離れまで運ぶの大変そうだから、酒は程々にしてよ。」
「おう。」
水戸の答えに満足した俺の機嫌はすっかり良くなった。
酒は程々にして俺といてくれ、ってことだよな、水戸。
俺は嬉しくて、今度は頬が緩むのを我慢出来なかった。
やべぇ、なんとかしねーと怪しすぎだぜ。
宮城の代わりにチェックインを済ませた赤木たちが、俺たちの方へ向かってくる。
「…お前も三井サンに甘かったんだな、水戸…。」
宮城が半分しか開いていない目で水戸を見て、同情するような声で言った。





その2へ

付き合っている二人のネタは何故かむずかしいです。そして相変わらずのトンデモ設定。
あと、卒業旅行じゃなくて追い出し旅行ですか?(謎)