私を旅館に連れてって。その2




とりあえず、風呂だよな。
荷物を置きに離れまで来た俺は、タオルと浴衣を持って立ち上がった。
景色とか見ろって?
それもいいけど、とりあえず風呂なんだよ。
皆行くって言ってたし。
それに俺はここの風呂が気に入っているのだ。

案内に付いて来ていた水戸を振り返る。
やることがない水戸は椅子に座ってぼんやりしていた。
「なぁ、お前は?風呂。」
水戸は座ったまま俺を見て首をすくめた。
「あー、俺はいいや。後で入るから。」
「何でだよ。皆いんのに。今入ればいーじゃん。」
「アンタの裸見て平気でいる自信ねーよ。」
そう言われると、仕方ない。
「あ、そ。じゃな。」
俺は短く返事をして、部屋を出た。
確かにしばらく逢ってなかったから、俺も溜まってるかもしれない。
「いってらっしゃい。」
後ろから水戸の声が聞こえた。

水戸があんなことを言ったので、どうも色々思い出して、下半身の雲行きが怪しい。
駄目だ駄目だ。
なるべく考えないように、頭を振った。
「ミッチー、おせーぞ!」
待っていたらしい桜木以下全員が俺を見ていた。
さっきの、見られてたかな。
思いきり挙動不振だったから、見られてたらちょっと嫌だな。
そう思いつつ、顔には出さない。
「先入ってりゃいーだろ。」
俺は特に急ぎもせず皆に近付いていった。
「メガネ君が待った方がいいって。…洋平は?」
桜木がキョロキョロと辺りを見回す。
「パスだと。」
「そーか。」
連れ立って脱衣所へ入るのは、何か変な感じだ。
今まで皆で一緒に風呂とかそういう付き合いしてなかったし。
「別に先入っててかまわなかったぞ、俺は。」
木暮の隣で口を尖らせる。
それぐらいで怒るような心の狭い奴だと思われているのは嫌だった。
木暮は上機嫌でいる桜木の様子を窺ってから、
「…最後だからな。」
と、苦笑いして言った。


最後最後と言われると、さすがに俺の気分も沈んでしまう。
しかも言うのは俺の好きな人ばっかってのはどうなんだ。
他の奴らが言いそうにない奴らだってだけなんだろうけど。
ひのきに頭を凭れかけて、俺は不機嫌な顔をしていた。
「三井、風呂でまでそんな顔してんな。」
赤木に諌められる。
俺はますます眉間の皺を深くした。
「けっ、お前だって似たよーなもんだろ。ま、顔のつくりが全然違うけどなぁ?」
赤木の眉がぴくっと動く。
「ま、まぁまぁ、ダンナ。抑えて抑えて。」
「そ、そうですよ。せっかくの温泉なんですから。」
宮城と安田が止めに入ってきたが、桜木がトドメの一言を放ってぶち壊した。
「はっはっは。ゴリはゴリラだからなー。」
「桜木!」
腰を浮かせて怒鳴る。
赤木の剣幕に押され、流川を除く1年が竦み上がった。
2年達も顔を引きつらせていたが、
流川は俺たちとちょっと離れたところでいつも通り我関せずって顔をしている。
俺は沈んだ気分を忘れて笑った。
やっぱこうでなくちゃな。
メガネを取っているせいであまり見えていないと思われる木暮が溜め息をついた。
「落ち着けよ、赤木。桜木も悪気があるわけじゃないんだから。」
「…余計悪いわ。」
赤木が渋々といったふうに元の場所に落ち着いた。
木暮に弱いのは、赤木も俺も一緒だ。

ほっと息をついている1年を見て、俺は首を傾げた。
「どうした、ミッチー。」
俺の視線に気付いた桜木が目の前に顔を突き出してくる。
邪魔邪魔。
見えねーじゃねーか。
桜木の顔を押し退けて、俺は湯の中を移動した。
桑田と石井と佐々岡に近寄っていく。
「…お前そんな顔してたっけ。」
いつもメガネをしている石井に訊ねた。
「え?えぇ?」
石井は落ち着きなく隣の二人を見回し、最後に俺の方を向いて自分を指差した。
「うん。お前。」
目で問われて頷く。
メガネをしていない石井の顔を見た覚えがあんまりなかったから、何か新鮮だった。
結構目がでけぇじゃねーか。
じっと顔を見つめていると石井の落ち着きが更に失われていく。
「お前俺の顔見えてんの?」
そう訊いたら首を振って否定された。
見えてないならなんで焦るかね?
よくわかんねぇ。
俺は石井に顔を近付けていくことにした。
「ここなら見える?」
「え、」
「この辺なら見えんだろ。」
あ、こいつの睫、下向きだ。
「いや、」
「まだ見えねーのかぁ?」
これ以上近付くとくっついちまうぜ。
「み、見えます!から!は、離れてください!」
手で顔をガードされ、思いっきり拒絶の言葉を吐かれて、俺はむくれた。
そんなに嫌がることねーじゃんよ。
石井の隣にいる二人は、何故か石井と俺に背を向けていた。
何、俺何か変なことしたわけ?
前に木暮にした時は何も言われなかったぞ。
「…三井サン…。」
左の方にいた宮城に名前を呼ばれてそっちを向く。
険しい顔の宮城が俺を見ていた。
「何だよ?」
でも宮城は目を合わそうとしないで、項垂れてしまう。
「………やっぱいい………。」
よくわかんねぇけど、俺が悪いのか?

回りを見ると、桜木も俺に背中を向けていた。
前屈みになっている。
「…。」
ということは流川も。
そう思って流川を見たが、別に普通だった。
だよな、まさかいくらなんでもそんなに皆俺のことが好きなわけねーよな。
そりゃ1年達には憧れられてるかもしれねーけど。
ただの偶然だと納得しかけた時、違和感を感じて、俺はもう一度流川を見た。
やっぱり違う。
さっき、何でもない顔をしてた時と違う。
明らかに隠そうとしてるじゃねぇか。
股間を。
「………俺、身体洗う。」
「あ、じゃあ、俺もそうしよう。」
木暮ののんびりとした声と一緒に、俺はよろよろと風呂を出て備え付けの椅子へ向かった。
…ちっとも納得できねぇ…。

全身キレイにして、俺は好きな温泉に浸からないでさっさと出てしまうことにした。
「ぬ?もう出るのか?ミッチー。」
復活…というには語弊があるか?…したらしい桜木から声がかかる。
「ああ、お先。」
「おう。あとでなー。」
言いながら扉を開けると、桜木が湯舟から手を振った。

…扉を閉める直前。
桑田が呟くのが聞こえた。
「…三井さんって、何であんなにエロいんですか…?」
俺は思わず吹いてしまった。
俺の何がエロいっつーんだ。
そりゃスタイルはいいけどよ、女みたいにムネがあるわけでもなし。
喘いでたわけでもなし。
…わかった、あんまり男ばっかしかいねぇから、ちょっと変になっちまったんだな、あいつら。
俺のこと好きなんじゃなくてエロかったから目逸らしたんだ。
何がエロいんだか知らねぇけど、きっとそうだ。
無理矢理自分を納得させ、浴衣をきっちり着込んで、俺は部屋へと戻っていった。


「水戸!」
「うわっ。」
勢いよく扉を開けると水戸が椅子から転げ落ちそうになった。
俺はずかずかと水戸の前まで歩いて、
「何やってんだよ。」
って笑った。
水戸もバツが悪そうに笑った。
「早かったね。お帰り。」
「ただいま。それがあいつらちょっと変でさ。俺がエロいとか言い出したんだよ。」
「は?」
「いや、上がる時桑田が…」
口を開けたまま見上げる水戸に説明する。

話を聞き終えた水戸が頭を抱えた。
「アンタほんとに自覚ねーのな…。」
ほとんど聞こえないような声で呟く。
「あぁ?」
こいつも俺をエロいとか言うのか?
そら当たり前だろ。
恋人同士なんだからエロい顔したっていいじゃんよ。
そう思って俺は眉根を寄せた。
「酒、持ってくけど、頼むから呑み過ぎんなよ。」
溜め息をついて水戸が椅子から立ち上がる。
「わかってんの?ミッチー。」
返事をしない俺に水戸が顔を寄せてきたので、俺はそのまま水戸を抱きしめて軽くキスをした。
…近かったから、つい。
「…わーったからミッチーはヤメロ。」
「はいはい。」
甘ったれた声を出すと水戸が笑った。
背中に腕が回され、今度は水戸から唇を重ねられる。
すげぇ久しぶりだ。
久しぶりすぎて無駄にドキドキしてる。
顔を見てるのがこっ恥ずかしくなってきて目を瞑った。
水戸の服を掴んでいる手に力が籠る。
…今してるのがエロい顏だよな、って、俺は思った。





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なかなか進まなくて大変でした…。しかしまだ続きます。
ミッチーの鈍さがえらいことになってますね。バカな子ほどかわいいというやつか…。
ところでうちのメガネ君は99%ノンケでございます。いいパパになってほしいです。